スマートフォンを通じた経験サンプリング調査のさまざまな実施方法を比較検討します。

a. 調査会社に委託する。

これは最も手間がかかりません。こちらの条件をすべて伝えて、調査実施環境を整えてもらいます。

ただし、費用がかさみます。ちなみに、150名の回答者に、7日間、一日7回ランダムな時間にシグナル(+各15分後のリマインダー)を携帯メールに送るという条件(回答者のリクルートおよび報酬支払いは含まない)で見積もりを取ったところ、リサーチ会社3社のうち1社から300万円の返答がありました。その他の2社からは「人的コストがかかりすぎるので不可能です」という返答をもらいました。ひとりひとりの参加者に対してランダムな回答時刻設定をする際、すべて手作業になってしまうことが最大の難関のようです。

b. ESM用のサービスやアプリを利用する。

スマートフォンを通じた経験サンプリング調査のために、さまざまなサービスやアプリが開発されています。

当サイトでは経験サンプリング法のページで紹介したように exkuma をお勧めしていますが、それ以外の代表的なツールについて以下で紹介します。

SurveySignal​  

WhatsApp/SMS/Email/電話を通じて回答タイミングを知らせ、スマートフォン上でオンライン調査への回答を求めるシステム。機能は非常に充実しています。ただし、①利用料が高額であること、②WhatsAppやSMSなど日本の利用者に馴染みのないアプリ、もしくはスパム認定や配信ブロックが生じやすいEmailを通じたシグナル送信であること、これらの理由から日本国内での使用はあまりお勧めできません。

HarvestYourData

比較的手ごろな値段でESMの実施ができます。様々な設問スタイルが選択可能であることや、日本語表示に対応していることが大きな利点です。ただし、専用のアプリのダウンロードが必要であることに抵抗を感じる回答者もいるかもしれません。また、月額99ドルの有料プランの場合、1か月に3,000回答までという制限があるため、回答頻度やサンプルサイズを抑える必要があります(追加料金で上限数を増やすことは可能です)。

Paco

こちらも、回答者にアプリをダウンロードしてもらう形式です。無料というのが最大の魅力ですが、バグが多いという問題があり、使いづらいという感想です。残念なことに開発がストップしてしまったようで、2018年8月以来アップデートがされていないという状況です(2020年9月現在)。

c. メーラーの日時指定送信機能を利用する。

もっと費用を安くおさえたい。そして時間と手間と気力は惜しまない!といった方のためには、下記のような代替案もあります。(私たちの調査チームでは、exkumaの登場以前はこの方法に頼っていました。)

この方法のメリットは、ある程度安定したシグナル配信を、無料で実施できることです。Eメール文面を自由に作成でき、当然ながら日本語表示ができますので、回答者が指示を読み間違えることもありません。しかしかなり手間がかかります…以下にその設定手順1〜3を説明します。

1.GoogleGroupsのメーリングリスト機能において、回答者の携帯メールアドレスを登録する。

まず、GoogleGroupsにログインし、新規のマイグループを4つ作成します。https://groups.google.com/

回答者を4つのグループに分けて、それぞれ別のマイグループに登録します。4つ、という数字に特に意味はありませんが、この数を増やすほどランダム化という点で望ましく、一方で手間が膨大になっていくという難点があります。私たちは4つであれば妥当だろうと判断しました。

そして、各グループのメーリングリスト宛に、Web調査ページのURLリンクのはいったEメールを送ることで、回答を求めるシグナルとします。同じマイグループ内の回答者には一斉にシグナル送信されるので、回答者ごとに送信時間がランダムになっているわけではありません。この点はおおきなデメリットです。しかし、メーリングリストを利用するのには理由があります。第一に、すべての回答者に無作為な時刻設定でメールを送ろうとするのは、手作業の場合ほぼ不可能だからです。手間がかかりすぎますし、エラーも生じやすいでしょう。第二に、メールのBCC機能では対応しきれないからです。そもそもBCC送信の場合、メール一通につき10件のアドレスまでという宛先数制限がたいていあります。では、10件ずつのアドレスにBCCしたメールを複数送ればいいではないかと思われるかもしれませんが、そこにも障壁があります。もし仮にメーリングリスト登録をせずに、BCCですべての回答者あてにシグナル送信しようとすると、送信を何度か繰り返したのちにメールサーバーから「一日の送信メッセージ数の上限を超えました」とエラーが出て、その日いちにちメール送信不能になります。つまりスパムメール認定されてしまうので、ご注意を。一方、メーリングリストを利用すれば、送信者から送られるメッセージ数は少なくて済みますので、制限にひっかかることはありません。

詳しい設定のしかたは、こちらから→ Googlegroups の設定マニュアル

このとき、いくつかの注意点があります。管理ページからメンバーを追加します。このとき、「メンバーを直接追加する」を選ぶこと。「メンバーを招待する」機能もありますが、これはGmailアドレスのみ対応しており、携帯会社アドレスは登録できません。また一度に直接追加できるのは10アドレスまでです。それ以上の数を登録したい場合には、この作業を何度か繰り返します。ただし、ひとつのGoogleIDをつかって一日のうちに登録できる人数は50人までと制限されています。登録先のグループが複数にわたり、各グループへの登録数が50より少なかったとしても、ひとりのIDアカウント内で作業している限りはその登録総人数でカウントされますので、ご注意を。回答者をリクルートしたら、複数日にわけて登録作業を行ってください。もしくは、複数のGoogleIDを用いて、それぞれに異なるGoogleGroupsを作成すれば、IDの数×50人まで一日で登録可能です。

登録時、画面下部にあるメール登録オプションは「すべてのメール」を選択します。メンバーを登録しおわったら、「すべてのメンバー」のページをひらき、回答者全員が登録済みであること、配信設定が「すべてのメール」になっていること、そしてオーナー(調査者自身のID)以外の投稿権限がすべて「許可しない」になっていることを確認してください。もし設定ミスがあったら、そのひとのIDをクリックすることで再設定できます。

2.送信時刻を算出する。

Excelの乱数発生機能を使用して、シグナル送信時刻を算出します。具体的には、RAND関数 =rand() をつかって0〜1までの乱数を発生させてから、それを時間のシリアル値として時刻表示に変換させます(表示形式で h:mm を選択)。すると一日24時間のなかでランダムな時刻を表示してくれます。ここでたとえば、朝9時から夜9時までのあいだを7つのフェーズに区切り、そのフェーズのなかでそれぞれランダムな時刻を表示させたいとしましょう。その場合、24時間を0〜1の数値で表した場合に、朝9時なら9/24、夜9時なら21/24、その差分を7で割ったものが1フェーズ分の長さとなります。そのフェーズ分をRAND関数に掛け算すれば、フェーズ内でのランダム発生ができます。これを7つのフェーズの各開始時間に足し算して、時間表示に変換すれば、シグナル送信時間が表示されます。ただし、2つのシグナル同士が短い時間で連続しないように、シグナル送信時間間の差分を算出して15分以内のものを外したほうがよいでしょう。これで1日分のシグナル送信時間のリストが完成です。これを7日間×4グループ分作成します。(少々ややこしい説明になってしまいましたが、ご希望があれば、サンプルとして私の作成した送信時刻算出用Excelファイルをさしあげます。ご連絡ください。)

3.メーラーで送信時刻を管理する

いよいよシグナルを送信します。Boomerang for gmailというサービスを使用します。http://www.boomeranggmail.com/jp/index.html

無料でダウンロードできますが、このままですと月10通しか予約送信ができないので、"Personal"プランにアップグレードします。月額4.99ドルですから、安価ですね。その後、メール文面作成と、送信時刻設定を行います。詳しい手順はこちら→ Boomerangで始める経験サンプリング(written by 金子迪大)

以上です。上記をお読みいただいておわかりになるかと思いますが、c.メーラーの時刻設定送信機能を使うのは、とても手間がかかり、設定にも気を使うので大変です...が、一度慣れてしまえば安定して送信できることが確認できています。

インターネット調査ページの作成について

調査ページの作成は、もし大学や研究室で契約されているようならQualtricsもしくはSurveyMonkeyがお勧めです。そうでない場合は、Googleフォームならば無料で使えます。いずれの調査プラットフォームを使う場合も、カスタム変数を活用すると良いでしょう。調査ページのURLにカスタム変数を入れることによって、データファイルにシグナル番号や送信日時などを自動的に記録させられるので、便利です。